ひとりごと    その22 '10年9月
87歳パソコン事始め


 
8月の末、母から電話があり、なんとパソコンを始めたというのです。 このページの16回目にご紹介したように、60歳を過ぎてからパッチワークを始め、ナンクロ・クイズにもチャレンジし続けている母ですが、父の日記の抜粋を写すのに、ワープロ機能だけでもパソコンをやってみたらと水を向けても、とても無理だと言って、始めようとしませんでした。それが、姪(本人の可愛い孫)に勧められると、すぐその気になったようです。
送ってきた初めてのメールが、

 毎日メール送ってください。
 見る練習から始めます。
 だんだん上達したらメールを送るようにします。

 生きててよかった〜〜〜

 と、最後の言葉が効いていて、思わず笑ってしまいました。
 まず、そのメールへの返事で、返信のしかたを教えたところ、ちゃんと返事が来たので、次は、これをクリックしてごらんなさいと、私や息子のHPのURLを入れました。16回目に母のことを書き、写真も無断で入れていたのがバレてしまったのですが、案外ケロッとしていて、怒るどころか喜んでいるようでした。そこで、87歳パソコン事始めを今度紹介していいかと訊いてみましたら、スンナリOKしてくれました。意外、意外の連続です。新しい世界が開けて本当に喜んでいるようです。その後、返事の度に撥音の入力の仕方など簡単なアドヴァイスを加えたりしながらやりとりを続けているうちに、みるみる学習が進んでいきました。10月にこちらに来る予定なので、その折にはいろいろ裏ワザを教えようかと目論んでいます。熱中し過ぎて目が疲れなければいいが、とも思いながら。

 さて、私自身のことに話を移します。前々回、シャンソンに興味を持ち始めたことを書きましたが、アテネ・フランセのシャンソンのクラスでNicolas先生にいろんな曲の歌詞を学んだりYUKAさん(→シャンソンのブログラジオ局)ほかシャンソン好きの人たちと親しく交流したり、昨今のシャンソン事情に詳しい太田光弘氏の講演会サロン・ド・シャンソンに何度も足を運んだりなどしているうちに、知識も増えてますますのめり込んでいき、歌うことを本格的に習いたいという欲求が次第に高まってきました。でも、いろんな教室を覗いてみてもどうも踏ん切りがつきませんでした。そして、フランス旅行のあと、ネット・サーフィンでフランス語シャンソンのベテランの山崎肇先生を知り、レッスンをお願いしました。ちょうど生徒さんたちの発表会があるというので覗いてみたところ、皆さんたいへん個性的で楽しんで歌ってらっしゃって、非常に好感が持てました。そして6月の末から月に1度の個人レッスンを受け始めました。先生ご自身のレパートリーを300曲以上お持ちのほか、すでに生徒さんたちに教えられた曲も多いのですが、それ以外の曲を希望しても引き受けていただけてたいへんありがたいです。
 今回、副題を「63歳シャンソン事始め」としてもよかったですが、恥ずかしいからやめて母の陰に隠れることにします。

 フランス語を学び始めた時は、昔やり残した宿題をやり直しているという感じでした。そしてそれが将来ヨーガと結びつく接点として、インドに傾倒していたロマン・ロランを研究するという目標を思い描いていました。でも、どんどん関心がシャンソンに集約されていき、当初の目標は影が薄くなりました。ヨーガの先達として、故 番場和夫氏がピアノを、塩澤賢一氏がフラメンコ・ギターを演奏されることを引き合いに出すのもおこがましく、ごくごく初心者ながらシャンソンにのめり込んでいったのは、前世の因縁としか思えません。が、あえて正当化すれば、ヨーガは私にとって単に個々の行法の寄せ集めではなく、他のジャンルをも包括する総合的な訓練体系で、生き方と言ってもいいものですし、また実際、体感として両者相通じるものがあります。
 サンスクリット語には多数の子音があり、口腔構造の使い方で種類分けされ、デーヴァナーガリー文字は子音+母音で一定の形をとり、文字と発音は完全に一致します。その調音はヨーガの細かなレヴェルでの息のコントロールすなわち調息と同様なもので、マントラが確かな機能を持つ理由はここにあるのだと私は理解しています。たとえば、オームはA→O→Mと、開いた音から次第に内側に入っていく音なのです。フランス語では、口腔構造の使い方の厳密さがより要求されます。子音の正確な調音も当然ながら、母音の種類が多く、よく語学の参考書に載っている母音の発音部位の図式、それに忠実に調音せねばならず、子音・母音の発音を細かく色分けして学ぶガテニョ・メソッドなるものさえあります。詩人のアルテュール・ランボーは『母音の歌』という詩を書き、5つの母音文字に色を当てはめています。Aは黒、Eは白、Iは赤、U緑、Oは青と、少々解しづらいのですが、フランス語の音の響きの心地よさ、それは確かに、さまざまな色を掛け合わせていくような豊かさとして私には感じられます。
 山崎先生のサイトのエッセイでは、フランス語で歌うことの価値を力説し、「韻を踏んでいる詩はメロディーと触れ合って、例え一言一言の意味が分からずとも、《歌う方にも聴く方にも》心地よさが感じられるのだ」と書かれています。何かの検索の際にこのページを偶然拾ったことが、入門のきっかけとなりました。シャンソンには歌詞も旋律もすばらしい曲がたくさんあり、魅力的な歌手たちのCDを手本に、調音からひとつの好きな曲を歌うところまで、どこか行法の修習めいた気持ちで取り組んでいます。11月後半に人前で歌うことになりそうですが、ヨーガのデモンストレーションとはかなり勝手が違うようで不安です。

 放送大学に関しては、今回は卒業研究はせず、前回の修士に続く3回目の卒業まであと7単位となり、必須なもの以外の興味ある面接授業も取ってのんびりとこなしています。世田谷学習センターで、シャンソンをテーマとした授業が時々開かれ、私を含め何人かが常連になっています。フランス語テキストの私的な勉強会もあり、数人がプルーストなど各自の選んだ文献を順番に読むのですが、私は、「エルザの瞳」や「バルバラ」などシャンソンとしても歌われている詩を持ち込んでいます。家でも、アテネ・フランセで習った曲や山崎先生に習う曲などを中心に訳してみています。シャンソンの歌詞にはもともと詩と共通の約束事があり、その約束事すなわち詩法に関する参考書も読み始めました。これはわたしの性分で、ヨーガの背景を調べた時と同じ虫が動き始めたようですが、難しくてなかなか進まず、1冊読み終えるのに1年くらいかかりそうです。前々回書いた、年の初めに引いた御神籤の「学は多きにあらず、要は之を精しうするに在り」という言葉。精しうするまでは行きそうにもありませんが、小さな歯形をつけるくらいはしてみたいと思っています。

 毎回、更新の遅いことの言い訳を加えていますが、最近、Poserソフトを4から7にグレードアップしたため、それに慣れるのに手間取っていて、アーサナ・コメンタリーのページの更新が遅れています。またもや、ごめんなさい。

ひとりごと1「はじめてのHP」'02年5月 ひとりごと2「事始めの当たり年」7月 ひとりごと3「ゆっくり行こう」9月
ひとりごと4「孤島に舟がやってきた!」11月 ひとりごと5「立つこと」12月 ひとりごと6「修習と離欲」'03年3月
ひとりごと7「一人事」6月 ひとりごと8「いいわけ?」'04年1月 ひとりごと9「その後」4月
ひとりごと10「ご報告に代えて」5月 ひとりごと11「シャボン玉」7月 ひとりごと12「ニャンのこと」10月
ひとりごと13「森の生活」'05年3月 ひとりごと14「森の生活…続き」8月 ひとりごと15「父の遺文」'06年3月
ひとりごと16「母のこと」11月 ひとりごと17「還暦」'07年5月 ひとりごと18「特許」'08年10月
ひとりごと19「独り」'09年1月 ひとりごと20「10年」'10年1月 ひとりごと21「パリへ」'10年5月
ミーナークシー(ヨーガあざな)
会員のKさんが、インド旅行のお土産に買ってきてくれたミーナークシー女神像です。
左肩にオウムをとまらせて、私の部屋のシヴァ神のレリーフの前で微笑んでいます。


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