第7回
蛙は2月(春)の季語。雨蛙なら夏でしょうし、秋に入ってから蛙を取り上げるとは、暑くない夏で季節感が狂ったみたいですね。でも、このページで取り上げるアーサナは、順序立てて決めてあるわけでもなし、毎回あれこれ斟酌して決めるわけでもなし、アーサナのほうで、ふっと立ち上がってきてくれるのです。<蛙のポーズ>は、「コメンタリーテーマに予定のアーサナ」にも入れていませんでしたから、私自身にも、かなり意外な選択となりました。でも、秋に紅葉する楓(カエデ)の名は「蛙手」の意味だということでは、これからの季節にピッタリかもしれません。
<蛙のポーズ>とよばれるアーサナは、2種類あります。ひとつは原名がベーカ・アーサナ(bhekAsana)、もうひとつはマンドゥカ・アーサナ(maNDukAsana)で、bhekaも、maNDUkaも同じく、frogすなわち蛙のことです。
マンドゥカ・アーサナは、古くから伝えられている坐法で、ゲーランダ・サンヒター教典にも記載されています。ベーカ・アーサナのほうが体操的で、後世に開発されたものだということです。
●<仰向けのマンドゥカ・アーサナ>→
ウッターナ(uttAna)を、あえて、「仰向けの」という意味にとらえると、とても気持ちのいいアーサナになります。マンドゥカ・アーサナの脚の形のまま、仰向けになり、頭の後ろで腕を組みます。足の位置がなんとも不思議なところにきます。
<蛙のムドラー> (マーンドゥキー・ムドラー)とよばれる行法を、この姿勢でおこなっても結構です。舌を反転して、下先を口蓋のほうに向け、少しずつ唾液(甘露!?)を飲みます。唾液は消化を助けるはたらきだけではなく、含まれる成分の殺菌作用によって微生物に対抗し、
口臭を防ぎ、歯と歯茎の健康を保つために大きな働きをしていますので、単に健康法ととらえても、たいへん有効な行法です。
ちょっと脇道に逸れますが、水泳の「カエル泳ぎ」すなわち「平泳ぎ」の脚の形にも、以前からのウェッジキックと、のちに開発されたウィップキックの2種類があります。
ウェッジキック…wedgeは楔型(V字)のこと。足を曲げた時の両膝の間隔は肩幅くらいで、そこから外側へ蹴り出し、足が伸びたら水を挟み込むようにして両足を閉じます。推進力は挟むことにより得られます。
ウィップキック…whipは、上下に動く、鞭打つ等の意味。足を曲げた時に両膝の間隔は拳1つ分で、そこから後ろに木の葉形を描くように蹴り出します。推進力は縦に鋭く蹴り出すことにより得られます。
英語のfrogは、「跳ぶもの」という意味をもつそうですが、脚の蹴りを蛙から教わってできた泳法でしょうか・・。
左の図を、まず形の面だけで見て下さい。2つの<蛙のポーズ>は、平泳ぎの2つのキックと、膝頭と足の位置関係が相似しているでしょう?逆に、この要素を除くことで、2つの<蛙のポーズ>の共通点が分かります。
一見まったく別物のような脚の形はともに、割り坐(=英雄坐 ヴィーラ・アーサナ)の変形、すなわち股関節を内旋させる形なのです。
わが家の池の蛙です。
ベーカ・アーサナ
平泳ぎのウィップ・キック
マンドゥカ・アーサナ
平泳ぎのウェッジ・キック
●<蛙のポーズ>ベーカ・アーサナ→
@両脚をそろえてうつ伏せになります。両膝を曲げて足を立て、両手で土踏まずの内側を持ちます。この時、手の親指が上になり、指先は後ろに向いています。(自然呼吸で)
A肘を立てながら、残気を吐きつつ両手を足の甲に回します。この時、指先は横に向きます。
B更に手を回転しつつ足の甲を押し、足裏を腿の横の床に押しつけるようにして、息を吸いながら上体をしっかりと起こします。この時、指先を前に向けて指をしっかり開きます。2,3呼吸のあいだ保ちましょう。
手の押しを弛めて上体を下ろしてから、手を外して脚を伸ばし、うつ伏せのまま、<ワニの休息のポーズ>↓でしばし休みます。
@
A
B
●<ベーカ・アーサナ>の準備形↑
片脚ずつの練習です。片肘を床について上体を起こしたまま楽におこなえるので、下肢の関節の柔軟性を養うのに有効です。
第1回の
<鳩のポーズ>の準備形も同系列の運動なので代用できます。
●<蛙弓のポーズ>←
片脚はベーカ・アーサナで、逆の脚は、内側から持ったまま膝を浮かせ、電車のパンタグラフのように高く上げ、<弓のポーズ>の形をとります。
上肢と肩甲骨そして下肢がうまく働くと、骨盤や背骨が焦点となってきます。そうした全身的な連動を導くためのアーサナとして、左右で異なるアーサナを合体させて創作したものです。
(参考)●<仰向けのベーカ・アーサナ>→
<英雄坐>ヴィーラ・アーサナで座し、両手をそれぞれ掌を下にして足の下に敷き込み、後ろの床に肘をつきます。親指と人差指の股に甲を乗せて足を持ち上げつつ上体を反らせて頭頂を床につきます。手は前後の回転で、掌に足の甲を載せるようになります。

少々、難しいアーサナなので、英雄坐や正坐での仰向けが楽にできることが最低条件で、ベーカ・アーサナの基本形が充分にこなせることが第2の条件となります。また、頚椎にかなり負担がかかりますので、
第5回の最後に紹介した
<魚のポーズ>などを練習してから試みるようにしましょう。
●上肢の準備形→
腰の後ろで両手の指を組み、肘同士を寄せようとします。ペーカ・アーサナに必要な肩甲骨の可動性を導きます。
上↑のように足なしで上肢の動きを練習しましょう。肘の使い方をよくマスターして下さい。Bでは指をしっかり開くと説明しましたが、蛙の手のようにあるいは楓の葉のような形でと言い換えてもいいですね。上肢の内旋の動きが上体を起こすはたらきをもつことを実感しましょう。
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●<ウッターナ・マンドゥカ・アーサナ>→
マンドゥカ・アーサナで座り、腕を上に挙げて折り曲げた肘の間に頭を挟むようにして、掌を同じ側の肩甲骨の上に置きます。あるいは、より強めた形では、頭の後ろで前腕を交差して、反対の肩甲骨の上に掌を置きます。
喉の引き締め(ジャーランダラ・バンダ)をおこなって顎を胸に付け、肛門(ムーラ)と横隔膜(ウッディヤーナ)の引き締め(バンダ)
もおこないます。
※ウッターナ(uttAna)には、「仰向けの」という意味と、「直立した」という意味とがあります。アーサナの名に用いられている場合は、後者の意味で、もとのアーサナを強めた形をあらわすようです。ゲーランダ・サンヒターの解説は、「蛙のように体を起こす」と読み取らないと、意味が通じません。

マンドゥカ・アーサナで座って瞑想することは
<マンドゥーカ・ヨーガ>(frog meditation)とよばれます。3ヶ所のバンダを意識的におこなわなくても、この坐り方で、自然とその3ヶ所が引き締まってくるのをまず感じ取りましょう。
●<蛙のポーズの前屈>→
両手を前の床に伸ばして上体を床にあずけます。顎を突き出して床につけると胸が床につき、形が強まります。
●<蛙のポーズ>マンドゥカ・アーサナ←
<金剛坐>ヴァジュラ・アーサナで座って、膝を広く開きます。足の第1指同士を触れさせ、体をまっすぐに立てます。
両踵に骨盤が挟まっていれば結構ですが、さらに深めると、骨盤が完全に床に降ります。